甘いもの恐怖症14


「なんか、最近さ〜。」
ハッとして久住を見ると、なんだかニマニマしている・・・。
しまったと思った時にはすでに遅い。

「な、な、なんでしょう。」
「最近、おまえ、楽しそうだなぁ〜」
「へ?!」
「なんかいいことあっただろう?」
やばい。
そう。最近、藤川さんに『付き合おう』と言われてから、
気を抜くと顔がゆるんでニヤけているのだ。

「何にもないですよ!なんなんですか〜!」
「かくすなよ〜。男だろ!言ってみろ。今度はどんな奴だ。」

今までも、尽くバレてきた。
なので、就職してからというもの、志保の色恋事のすべてを久住は知っている。

「今回はちゃんとした人です・・・。」
「へ〜。で?どんなんだ?」

今までの男性は全員、久住にめった切りされている。
確かにダメ男ばかりだったのだが・・・。

「ちゃんと働いている方ですよ。」
「お〜。進歩してんじゃんか。」
「進歩って・・・。」
「で?何やってる奴なの?」
「自営業?なのかな?」
「かな?ってなんだよ。聞いてないのか?」
「いやいや、聞いてますけど、よくわかんなくて。」
「言ってみろ。どんなんだ。」
「もうちょっと、待ってください。ほんとに付き合って間もないんです。」
「ふ〜ん。」

「まぁ、お前はほんとに男運ないからな〜。」

相変わらずニヤニヤした久住を軽く睨みながらポトフのキャベツで自分の口をふさいだ。

そう、今まで、いい恋愛をしてきていない。
依存する男、暴力を振るう男、二股どころか八つ股を掛ける男。
働いてなくて志保の家に住みついたヒモは久住に追っ払ってもらった。

「まぁ。なんかあったら言えや。」
「はい。」
「そうか〜。付き合いはじめか〜。じゃ、そのゆるんだ顔も仕方ないな〜。」
「うっ。ゆるんでません!」
「まぁまぁ。今のうち、ゆるんどけ。どうせお前のことだから、数か月もすればなくことになるんだから。」

今までが今までなだけに、返す言葉がない。

「今回は大丈夫です!」
強がって言ってはみるが、何とも説得にかけるのは、自分が一番よく分かっている。
でも、藤川さんは志保にとって雲の上にいるような人だ。
「それ、毎回言ってるから。」
「むー!」

久住は志保に男が出来たことを言い当てて、聞いてはくるものの、
無理に言わせるようなことはしない。
久住もしばらくすれば志保のほうから相談してくることを知っているからだ。

「まだ、わからないんです。でも、私と付き合うような人じゃないんです。」
「ベタ惚れだな〜。」
「う〜ん、どうなんでしょう。そうなのかな。」
「でも、お互い確認して、ちゃんと付き合ってんだろ?自身もてよ。」
「・・・はい・・・。」

志保にとって久住はお兄ちゃんのように感じている。
仕事では厳しいところも、もちろんあるが、私生活でも何かと世話を焼いてくれる。
久住のような頼もしい存在がいたから、仕事もここまで続けてこれた。
だから精一杯、仕事で恩返しがしたいのだ。

「よし、帰るか〜。」
「はい!」
二人のとき、久住はだらだらと長居することがほぼない。
平日で明日も仕事だからということもあるが、さっぱりしているので
志保も誘われれば毎回同席している。
しかも毎回ごちそうになっている。

久住とは方向が逆なので、フラココで別れた。

深夜といえど街灯も多く、人通りもあるため安心して歩いて帰れる。

今のアパートは入社が決まった際に、久住と物件回りをして決めた。
家賃もそれほど高くないのにオートロック付きで入居者も女性に限られている。

道中のスーパーで卵と牛乳を買い、部屋までついた時には
9時半を少し回っていた。



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