甘いもの恐怖症11


15時半を過ぎたころ、久住が吉川を連れて戻ってきた。

あからさまに機嫌が悪い。

「嫌なのはわかるけどさー、仕方ねーだろうが。」
「仕方なくないだろう、なんで俺が巻き込まれなきゃいけないんだよ。」
イラつく久住を吉川がなだめてみるが、治まりそうにない。

志保はお茶を入れに給湯室に立とうとしたとき、
C1のドアがノックされ開いた。

「失礼します。」
現れたのは藤川だ。

「あ、すいません。」
「こんにちは。」

固まる志保に、藤川は微笑む。

「あ〜、こちらどうぞ。」
久住が藤川を確認し、声を掛けたことで、志保は我に返り
「失礼します。」と一言残し、給湯室に逃げるように去った。


びっくりした。
いきなり藤川さんが出てきて、心臓止まるかと思った!
・・・しかし、今日もとびきりの激甘スマイルだったな〜。
あんなの見たらデータの女の子たちが騒ぐのも無理ないよ。


逃げ込んだ給湯室でもたもたもしていられない。
とにかくお茶とコーヒーの準備を始める。

藤川とは初対面の設定になっている。
一度パーティーで会っただけ。
志保はもう一度、藤川と交わした設定を復習し、お茶とコーヒーに取り掛かった。


お盆に吉川と藤川用のコーヒーを、久住用に温い緑茶を載せて
C1に戻る。

久住が藤川にメンバーを紹介していた。

志保はできるだけ静かに入り、吉川のいるミーティングテーブルに、
飲み物を置いた。

自席に戻ろうとすると、吉川がこそこそ話しかけてきた。
「どうよ、園田さん。」
「え?どう?とは?」
「イケメンじゃん?ミスター。」
「じゃん?って。・・・そうですね。」
「ドキドキとかキュンッとかしないの?」
「吉川さん、私、仕事中です。」
ムスッとしたふりをして返し、その場を離れようとするが、
なかなか、思い通りにさせてくれない。

「まあまあ、ここで園田ちゃんがちょっと揺らげば
久住も焦るんじゃないかと思ってさ。」
あきれた。
「・・・意味が分かりません。コーヒーどうぞ。」
「ははは、ありがと、ありがと。」

コーヒーで吉川の口を封じ、やっと席に戻った。
一巡し、久住による藤川への紹介も、無事に済んだ。

ミーティングテーブルで久住、藤川、吉川が打合せをしている。
暫くして、久住が瀬野と加藤を呼ぶ。

そのまま2時間休みなく打ち合わせが続いた。



「では、よろしくお願いします。」

長時間の打ち合わせ後とは思えない、さわやかな笑顔を残し、
藤川がC1を後にした後、相変わらず不機嫌そうな顔をした
久住が大きなため息をついた。

「おまえな〜そのため息はこっちが疲れるわ〜」
吉川が突っ込むも、久住の仏頂面は崩れない。

志保は給湯室に向い、自宅で焼いてきたクッキーを皿に乗せ
メンバー分のコーヒーと久住のお茶を用意してC1に戻る。


戻れば吉川含めメンバー全員がミーティングテーブルに集まっていた。
飲み物を配り、クッキーを中央に出し、なんとなく末席に着く。

「いや〜、しかし、よくまあ厄介ごとを引き付けるね〜、マネージャー。」
あきれて笑いながら、最上が言う。

「なんかね、さっきの人、辻本さんの紹介で来た人で、監査は監査なんだけど
業務改善ってことで、風通し良くすることも目的なんだって。
で、ターゲットはデータなんだけど、1週間見たところ、正面からぶつかっても 抜本的には変えられないってことで、
C1からと経営側の2方向で切り込みたいんだって。」
「はぁ、そうなんですか。」

途中から来た志保に加藤が説明してくれた。

「まぁ、妥当だね。C1というより、久住君というとこだろう。」
瀬野がうんうんと頷きながらつぶやく。

「すいません、こちらが至らないばかりに。」
吉川がぺこりと頭を下げる。

「そう思うなら久住に一杯奢っとけ。」
最上の喝が入る。
「はいっ!」
ちゃらけていた吉川も最上に言われ、まじめに返事をする。


最上はC1ができる前、久住、吉川と共にデータ事業部にいて、
1年年次が上で2人の教育係でもあった。

C1立ち上げの際に辻本が、「最低でも1人、自分よりも上の人間をメンバーに入れろ」と
久住に指示した際、迷わず最上に話を持ちかけた。
職位的には後輩である久住の下になるも、最上は即答で受け入れた。

C1をここまでやってこれたのも、最上の存在あってのことであることを、
久住も吉川も身に沁みている。

「俺一人じゃ絶対に無理だ。本当に引き受けるなら、みんなにも協力してもらわなきゃならない。」
伏し目に眉間に皺を寄せて、久住が言う。

「俺は久住さんが引き受けるなら、やりますよ。」
正木が言う。

「うん、それは皆そうでしょう。ねえ。」
全員を見回し瀬野が窺う。

それに全員が頷いた。


「ふー・・・、わかった、じゃあ引き受けよう。みんな、よろしく!」
「はい!」
C1の団結力は強いのだった。










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