甘いもの恐怖症13


久住のマンションに車を停めて歩いてフラココに到着したときには
二人ともお腹がペコペコになっていた。

「こんばんは〜。」

引き戸を開けて店内に入る。

「おう、いらっしゃい。」

「ども」

適当にテーブルにつく。

「今日はなにがあるのー?」
卓上のメニューを眺めながら、だら〜っと久住が店主に問う。

「今日はポトフなんだ。」
「じゃ、それ。」
「あと、ジャガイモのガッレトお願いできますか?」 なれた調子で志保も続く。

「俺、ビール」
「私、あったかいお茶ください」
「はいよ」

とりあえずの注文をして、一息つく。

「あー、今日は疲れたな。さすがに疲れた!」
「ずっと、お打ち合わせ続きでしたもんね。お疲れ様でした。」
テーブルに突っ伏す久住を労う。

まずはビールとお茶で乾杯。

「ぷはーっ。あー。」
「ふふふっ。」

ビールを流しこみ声を上げる自分を笑う志保を見る久住。

「わるかったな〜。オヤジなんだよっ!」
「そんなこと言ってないじゃないですか。
今日もおいしいビールにありつけて良かったですね!」
「おうよ。」

久住のジョッキはポトフが来る前に底をつき、
2敗目からはハイボールにかわる。

先付で出してくれた数種類のお惣菜をつまみながら
今日あったことや、思ったこといろいろ話す。

そうしてる間に熱々のポトフが出てきて
二人とも空腹なため、しばらく無言で食べる食べる。

後から出てきたガレットにも手を付けたころ、
ようやく落ち着きだした。

ガレットは少しバターが効いていて香ばしい。
フラココで出される料理は少しお洒落でありながら
そこを気にせず食べれるお店だ。

最初に久住に連れてきてもらった時、
志保は意外に感じた。

久住は小汚い大衆居酒屋のガヤガヤした雰囲気を好んだりするからだ。
フラココは静かでゆったりしている。
そして大人なお洒落感も漂う。

だがしかし、しばらくして、わかったのだ。
家でダラ〜っとのんびりしているような気になってくる。

後で久住が教えてくれた。
ここは、ある程度の客が入ったら、ドアに『満員』と出すという。
だから先ほど会社を出る時も到着前に電話を入れたのだ。
電話をしておけば、席を確保してくれる。

夜のフラココのテーブルは満員にするためにレイアウトされているのではなく、
客が自由にテーブルを選び、時間を過ごすためのつくりだそうだ。

なので、ある程度埋まると、席を選べなくなるため、選択肢がないということで、
『満員』とするのだ。

これは店主が店に出る夜に限ったことで、日中に息子が店を回しているときは
席を埋める。

平日の昼間は、専業主婦で埋め尽くされ、賑やいでいるという。
息子の甘いマスクも一役かっているのだろうと久住は笑いながら言っていた。

夜のこの店主のこだわりが久住は好きなのだろうと志保は思った。

志保のアパートからも歩いて来れる距離にあるため、久住が一緒じゃなくとも
たまに一人で訪れたりしている。

今もサクサクと食べているジャガイモのガレットがお気に入りなのだ。
他にもピクルスも好きでよく食べている。

たまにあるキッシュもおいしい。

志保は藤川にもこのガレットを食べてみてほしいと思った。


次へ TOPへ HOMEへ