甘いもの恐怖症2


4玉のもんじゃ焼きを堪能し、デザートのグレープフルーツシャーベットを食べ終えた。
お腹は大満足だ。

いつも家まで送るという藤川を志保は丁重に断っている。
今日もそのつもりでいたのだが、藤川はいつもと違う言葉を放った。

「志保ちゃん、栗、好き?」
「?・・・へ?栗・・・ですか?」
目が点の志保に藤川は続ける。
「昨日、お客さんにい〜っぱいもらっちゃって、僕は嫌いじゃないんだけど、
どう頑張っても消費しきれないんだよね。」
苦笑しながらもらった箱の大きさを手で示す。その大きさ50センチ×30センチ。
・・・・栗って。
「栗ご飯とかにしてみては?」
志保は自分で言っときながら、何とも突拍子もセンスもないなと後悔した。
「いやいや、もうすで加工済みなんだよ。マロングラッセにね。苦手かな?」
「いえ、苦手ではないですが、私がいただいてもよろしいんですか?」
マロングラッセなんておしゃれなものなら、きれいなお嬢さま方にも受けるんじゃないだろうか。
「もちろん。志保ちゃんが引き受けてくれると助かるよ。」
と、藤川はふわりとほほ笑みを投げてきた。

志保はマロングラッセに負けたのか、藤川のほほ笑みに負けたのか、
結果、いただくことになった。

「じゃ、僕んちすぐそこだから。」
そう言って藤川は車を発進した。
のだが、ここで志保はパニックに陥る。

え?今、僕んちって言った?
え!え?ってことは、今、僕んちに向かってんの?!
志保はパニクったまま藤川に提案してみる。
「あの、今度お会いしたときにでもいいですよ。マロングラッセなら日持ちもしそうですし。」
「早く渡せば志保ちゃんも長く楽しめるでしょ?」
志保の提案はやんわり、ばっさり切られた。
いつも志保が食事の予定を変更するときも100%志保の都合に合わせてくれる藤川だったから
かわせなかったことに、さらに志保はパニックになる。

どうしよう。藤川さんちいっちゃうのか・・・。どうしよう。緊張する。緊張する。
志保は途端に額に汗がにじむのを感じた。

普段、藤川から話題を提供してくれて、沈黙は存在しなかったのだが、
なぜか今、車内は沈黙が続いていた。
そのため、志保のこれからの予想という妄想がどんどん膨らむ。
額の汗は止まらない。
信号を3つ進んだところで赤に変わり、車が停止する。
車の停止とともに志保の妄想も止まり、我に返る。
信号の赤いランプを見て、周りを見る。
金曜の夜。交差点には酔っ払いのサラリーマンやOLが笑いながら
横断歩道を渡っていく。
中にはカップルが手をつなぎ、寄り添い、渡っていく。

あ、私、なに考えてたんだろう。
そもそも。そもそもだよ。
なんにも慌てることないじゃないか。
慌てなきゃいけないのは藤川さんちに行って、何か起こる場合だ。
私が藤川さんちに行って何が起こるというんだ。

志保は今まであれやこれや妄想し、今日の自分の下着まで思い出して確認していたことが
急に馬鹿らしくなり、プッと小さく吹き出し、笑った。
そんな志保に藤川が反応する。
「ん?どうしたの?」
「あ、酔っ払いのおじさんたちが楽しそうだなと思って・・・。」
問われても、自分の下着を確認してましたとも言えず、
志保は酔っ払いのせいにしてごまかした。
「ははは、そうだね。今日は金曜日だから、明日の心配をしなくていい分、楽しいんだろうね。」
「ふふふ、そうですね。」
今度は楽しそうな酔っ払いをみて笑えた。












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