甘いもの恐怖症3


ほどなくタワーマンションの駐車場に入った。
月島のもんじゃ焼き屋の近くの駐車場から、藤川のマンションは本当に近かった。
走り出してから10分ちょっとで到着した。
「志保ちゃん、着いたよ。」
「あ、はっはい。」
車から降り、藤川の後をついてエレベーターに乗り込む
藤川は21階を押した。

21階に到着し、右に進み、通路の突き当り、
“2110FUJIKAWA”と記されたドアを開け、中に通される。
スリッパを履き、廊下を歩き、藤川は奥のドアを開けた
そこはリビングになっており、キッチンダイニングとつながっている。
「ソファーに座ってて。今、お茶入れるよ。」
そう言って藤川はスタスタとキッチンへ向かっていった。
「はい。あ、いや、ぁ、あの、ぉおかまいなく・・・。」
緊張してどもり過ぎ、蚊の鳴くような志保の声は当然、藤川に届かない。
志保は再び額に汗をにじませた。

どうしよう。どうしよう。何やってんだ私!

藤川がいるキッチンからはシュンシュンとお湯の沸く音がしだした。

もらって帰るだけじゃなかったんだ。
そして、ここはどこなのだろう。
月島から車で10分。
あー、車なんていつも乗らないから距離感わかんない!!
来る途中、もっと外見とけばよかった!

「志保ちゃん、紅茶でよかったかな。」

ぐるぐる考えていると、藤川がお盆にティーカップとマロングラッセの入ったお皿を持ってきた。

「あ、ぁありがとうございます」
うまく声が出せない。

「どうぞ」
藤川は志保の目の前に香り立つ紅茶と大き目のマロングラッセを置いた。
「食べてみて?気に入ったらぜひ持ってってね。」
目の前にはさわやかな紅茶の香りと甘いマロングラッセの香りと、
甘い藤川の笑顔がある。
“帰ります”なんて言う隙はない。
とりあえず、落ち着かねばとティーカップを取り、
ふぅーふぅーと少しさまし、紅茶を一口。
「あぁ」
美味しい。
そしてマロングラッセを一口。
「ん〜。美味しいです!」
「ほんと!よかった!」
志保の感嘆の声と笑顔に、藤川も笑みを返す。
ん??
「藤川さんは召し上がってないんですか?」
「うん、まだ。」
「え!?すいません。藤川さんがいただいたものなのに、私が先にいただいてしまって!」
「あ!あの、じゃあ、これ、半分ですが召し上がってください!」
「う〜ん。僕はこっちがいいな。」
へ?え?!

一瞬だった。
頭を引き寄せられ、藤川の顔が近づき、
くちびるが重なった。

と、同時に志保の頭と身体の動きが停止した。

藤川はほんの数センチ、くちびるを放し、クスリと笑い、志保の横に座りなおした。 「ん〜ん!ほんとだ美味しいね。もっと味あわせて。」
固まったままの志保は反応できない。

再び、藤川のくちびるが志保のそれに重ねられた。
今度は角度を変えながら藤川の舌が志保の口内に入ってきた。

ゆっくりと、ねっとりと。
濃厚なクリームを味わうように舌が進む。
固まっている志保も、藤川の舌の動きに脳がしびれるのを感じた。
「ん・・・ぅは、ん・・・。」
意識せずとも志保の口からため息が漏れた。

二人が酸素を求めるように息をついた後、
志保はうつむく。

藤川が志保の様子をうかがいながら小さく問う。
「いやだった?」
問われた志保はうつむきながら首を横に振る。
行為に否定されなかったことに少し安堵し、藤川が続ける。
「急にこんなことして、ごめん。でも、僕たちの関係を少しずつ初めていきたかったんだ。」
志保は藤川の落ち着いた優しい声で落ち着きだした。
そっと、そっと、藤川の顔を見上げる。
藤川の目は優しく、しかし真剣に志保の目を見ている。

志保は言葉を発することもできず、
ただ、コクンとうなずいた。














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